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徳島地方裁判所 昭和59年(ワ)14号 判決 1987年4月27日

原告 日本労働組合総評議会全国金属労働組合徳島地方本部三立電機支部

被告 坂東和義 外七名

主文

一  被告らは原告に対し各自金一四六八万〇八六二円及びこれに対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し各自金一六九二万三〇二五円及びこれに対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下「全金労組」という。)は金属機械産業に従事する労働者を構成員とする個人加盟による単一組織の労働組合であり、下級機関として各都道府県に「地方本部」が置かれ、事業場ごとに「支部」があるところ、原告は全金労組に所属する組合員のうち徳島県麻植郡川島町にある三立電機株式会社に勤務する者を構成員として、昭和四八年二月一九日に結成された労働組合であつて、全金労組の下級機関である。

2  被告らは昭和五八年一二月六日ころまで、それぞれ原告組合の次の役職にあり執行部を構成していた者であるが、右同日ころ全金労組を脱退して徳島県金属機械労働組合(以下「徳島金属労組」という。)に加入したと称している。

被告坂東和義 執行委員長

同 桜間芳幸 書記長

同 福家正照 執行委員(会計)

同 渡部義文 執行委員

同 渡部修  右同

同 佐藤留弘 右同

同 小原健二 右同

同 原田武  右同

3  右「脱退」に先立ち、被告らは、通謀のうえ、昭和五八年一一月二六日の執行委員会において、組合大会を招集して、(1)原告の組合規約五一条「この支部は、毎月一定の金額を組合費とは別に闘争基金として、積み立てておかなければならない。闘争基金は、特別会計とし闘争以外の目的に使用しない。」を全文削除する、(2)同日現在の一般会計、闘争積立金会計、カンパ会計及び青婦会計の現金・預金合計一四五五万一七九六円を全組合員に分配する、(3)分配方法は、右合計金額を全組合員の組合在籍総月数で除した金額に各組合員の在籍月数を乗じたものを各組合員の受け取る金額とし、現金で交付する、(4)分配期日は同月二八日とする、との提案をすることを決定し、規約に則り、職場委員会を招集して同日午後四時五〇分ころまでに組合大会招集についての承認を取り付けたうえ、同五時一〇分ころ臨時組合大会を招集して右議案を上程した。決議の結果は、賛成一〇六、反対六一であつたが、被告らは、このほかに不在者投票が五票あり、すべて議案に賛成であつたので、議案は規約に則り総組合員数二二一名の過半数である一一一の賛成で可決されたと称して、同月二八日から分配を開始し、組合員に対し少なくとも闘争積立金会計からの一四六三万八七五六円、青婦部会計からの四万二一〇六円の合計一四六八万〇八六二円相当の組合財産(現金・預金)を現金化して交付してしまつた(ただし、受領を拒絶した組合員一〇名余りの分は供託した。)。

4  ところで、被告らは原告に対しては法律上委任又は準委任の関係に立ち、善良な管理者の注意をもつて原告の財産を保管する義務を負つているところ、被告らが共同でした右組合財産の分配は、次のとおり、著しくその職務上の義務に反するものであり、被告らはこれにつき債務不履行の責任のみならず、不法行為の責任をも負うべきである。

(一) 元来、労働組合の財産は当該労働組合を構成するすべての組合員の「総有」に属し、組合活動の基盤となるものである。したがつて、個々の組合員はこれにつき持分を有せず、全組合員の同意に基づくか、若しくは組合を解散する場合でなければ、これを分配することはできない。原告においては解散は、組合規約一一条七号及び一三条により、組合大会での直接無記名投票による組合員総数の四分の三の賛成と、全金労組徳島地方本部及び同中央本部の各承認がその効力発生要件とされているところ、前記の組合財産の分配は、解散に関する前者の大会決議の可決要件はもとより後者の効力発生要件も備えていないのに、あえて強行されたものである。

(二) 原告の組合規約四八条は「納入された組合費は、いかなる理由があつても返却しない。」と規定しており、分配の対象となつた組合財産は組合員から納入された組合費とその預金金利からなるものであるから、これを分配するというのは、実質的には組合費を組合員に返還することになり、右規定上からも許されないことである。

(三) 被告らは、前記のとおり、財産分配の前提として組合規約五一条の削除を提案し、これが同一一条二号にいう「規約の修正変更」に該当するので、前記財産分配に関する議案を一括して可決するためには同一三条ただし書により組合員総数の過半数の賛成が必要であるとの見解のもとに大会に臨んだのである。この見解によれば、当時の組合員総数は二二一名であつたから、右議案の可決のためには一一一名の賛成が必要ということになる。しかるところ、被告らは、大会では一〇六名の賛成しかなかつたのに、不在者投票が五票あり、これがすべて賛成であつたから、議案は賛成一一一で可決されたとしたことは前記のとおりである。しかしながら、原告組合には規約上不在者投票という制度は存在しないし、仮に不在者投票の慣行があり許されるとしても、それなら大会当日の欠席者全員にその機会が与えられなければならないのに、そのうちの五名にのみその機会が与えられ、しかもこの五名が投票をした時刻は当日の午後二時二〇分から同三時までの間のことであり、この時刻には大会への提出議案も決定されていなかつたのであるから、このような投票方法は著しく不公正なものであつて、その投票は無効である。したがつて、右議案は大会議決としての可決要件を具備しない。のみならず、被告らは、大会直後は右五票は欠席者からの委任によるものであると言い、後に至つて不在者投票であると言い直していることや、これが丁度可決に必要最小限度の五票であることからすると、これについては実際には組合員による投票はなく、被告らが水増しをした疑いが濃厚である。

以上のとおり、被告らは、全金労組を脱退して徳島金属労組に加入することを企図したが、そうすると、原告の組合財産については何の権利も有しなくなつてしまうので、労働組合の存続中にその財産を組合員に分配するというようなことが法律上認められるものでないことを知悉しながら、脱退に先立ち、あえて、これを強引な手段で分配し、被告らとともに原告を脱退し、新たに結成した徳島金属労組三立電機支部に加入した組合員に分配金の一部を拠出させ、新組合の財政的基盤固めを図つたのである。その結果、原告の組合財産のほとんどが消失してしまつたのであり、被告らは原告に対し債務不履行責任のみならず、不法行為責任をも負うべきことは明らかである。

5  被告らは、原告を脱退したとする日の後も原告の会計帳簿等を占有しており、本件訴訟係属後の昭和五九年一一月二〇日に至つてようやくこれを返還した。右会計帳簿等を調査すると、次のとおり、違法に支出され、若しくは実際には支出されていないのに支出されたようにして被告らにおいて隠匿しているか、仮に支出されていたとしても正当な組合活動のために支出したものではないと認められる金銭がある。

(一) 一般会計帳簿は、昭和五八年九月二八日以降の分が四ページにわたつて破り捨てられ、全面的に書き換えられており、収入支出の都度記載されたものでないことが明らかである。

一般会計帳簿には同年一〇月七日に全金労組光洋CR支部への陣中見舞として一〇万円が支出された旨記載されているが、帳簿と銀行預金通帳の各記載を対照すると、右見舞金は実際には支出されておらず、被告らは右同日以後にこれに見合う金額の預金を払い戻し、隠匿した疑いが濃厚である。

同年一一月一四日以降の一般会計帳簿上の支出は交通費、食費等が異常に多く、実際に支出したものかどうか疑わしい。実際に支出されていても、その支出は予算に基づかず、職場委員会又は組合大会の議を経ない違法な支出であるから、右同日現在の銀行預金残高七四万六七〇九円から、正当な支出と認められる同月二五、二六日のフタバ文具店への支払分二七万円を差し引いた四七万六七〇九円は違法に支出されたものか、被告らが隠匿した分である。

同月一六日には全金徳島地本から共闘基金一〇四万〇三一九円が返還されているが、これは昭和五八年七月にそれまでは組合員各人が五〇〇〇円ずつ組合費とは別個に拠出して預託していたものを各人に返還してもらい、代わりに原告の闘争積立金会計から一〇四万円を支出し預託していたものであるから、これが返還された際には闘争積立金会計へ戻し入れなければならないものである。それにもかかわらず、被告らはこれを一般会計に組み入れ、違法な支出に当てたか、若しくは支出を装つて隠匿した。

同月一八日に一般会計に組み入れられている保険からの受入金七万五五一一円についても同様である。

原告には同月二九日以降に、組合費として六一万六九二〇円、雑収入として一万四七五八円の収入があつたところ、被告らは同年一二月六日に原告を脱退したとしながらこれに相当する金銭を占有して原告に引き渡そうとせず、隠匿している。

(二) カンパ会計では、同年一〇月一七日と一一月七日の二回にわたり一般会計から一五万円ずつ計三〇万円を受け入れ、これを鴨島中央病院労働組合に対するカンパとして支出し、同年一一月二二日にも一〇万円を同様のカンパとして支出したとされているが、一労働組合に対してこれほど多額のカンパが四〇日間という短期間に支出された例はこれまでになく、また一般会計及びカンパ会計の予算規模(カンパ会計は年間予算規模は六二万円余り)からして右カンパは当初の予定にはないものであつて、いずれも規約上必要な職場委員会又は組合大会の議を経ないでされたものである。そのほか、同年一〇月三一日には別の労働組合に対するカンパとして一万円、同年一一月二八日には組合員に対する払戻金として一万七六二九円が支出されているが、これらも同様であつて、適正に支出されたものではない。

(三) 以上の合計金額は二七五万一八四六円である。

よつて、原告は被告らに対し、被告らの債務不履行若しくは不法行為により被つた損害金として、各自、右分配金及び支出金若しくは隠匿金の合計一七四三万二七〇八円から、後に被告らから返還を受けた五〇万九六八三円を差し引いた残額一六九二万三〇二五円及びこれに対する本件請求の趣旨拡張申立書送達の日であつて、不法行為の日の後である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実のうち、原告が全金労組の下級機関であることは不知、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は認める。議案は最終的には賛成一一一反対六一で可決されたものである。

4  同4の主張は争う。

(一) 昭和五八年一一月当時、原告組合の内部には現在の執行委員長である猪井栄次を中心とする執行部批判派と執行部支持派との間に全金労組中央本部の指導方針をめぐつて深刻な対立関係が生じており、分裂は避けられない状況となつていた。そこで、被告らによつて構成される執行部は、労働組合が分裂した場合、他の多くの例に見られるように、その後、両派の間で組合財産の帰属をめぐつて長期間にわたる紛争が繰り返され、その間、組合財産は事実上凍結状態におかれるという不幸な事態を避けるために分裂を前提とした組合財産の処理について全組合員に公平で、合理的な方策を模索した結果、これを組合員の在籍日数に応じて按分比例の方式で配分することにしたのであり、その議案は、原告の最高決議機関である組合大会において、多数決によつて示された組合員の総意により承認されたものである。この方策は、対立する両派にとつても個々の組合員にとつても公平なものであつて、労働組合の分裂の場合における財産処理の合理的な方策の一つとして是認されるべきである。

(二) 原告の組合規約五一条は、闘争積立金は「闘争以外の目的」には使用しないことをうたつているが、これは多分に訓示的な規定であつて、例外的に組合大会に示される組合員の総意により「闘争以外の目的」に使用することまでも排斥する趣旨とは解されない。原告においては、これまでにも闘争積立金の中から昭和五七年一一月一日の組合結成一〇周年記念式典のために一〇〇万円が使用され、昭和五八年に全金労組徳島地方本部から、個々の組合員が五〇〇〇円ずつ拠出して預託しておいた共闘基金一〇四万円が返還された際にはこれを直接配分しないで、闘争積立金から右同金額を取り崩して組合員へ配分するなど、組合大会の決議に基づいて闘争積立金が闘争以外の目的にも使用されてきたのであり、闘争積立金と一般会計の一部の組合財産を組合員に分配する旨の原告主張の執行部提案もまたこの延長線上にある。そして、その前記(2)ないし(4)の決議案は、同(1)のそれと一括上程されてはいるが、組合規約五一条を削除する旨の(1)の決議案とは異なり、同一三条本文により大会出席組合員の挙手又は直接無記名投票の過半数の賛成で可決、成立するのである。右(1)の決議は、(2)ないし(4)の決議の前提として法律上欠かせなかつたわけではなく、同五一条の規定の文言上誤解が生ずるのを避ける目的で念のために併せ提案したにすぎない。

(三) 原告の組合規約四八条は、一旦納入された組合費は個々の組合員に対しはじめから納入がなかつたことにするという意味での「返却」はしないという趣旨であつて、組合費として納入され組合財産となつている金銭を組合員に配分できるかどうかとは別の問題である。

(四) 原告においては、組合員の中に汽車通勤者も多数おり、勤務終了後開催される組合大会に帰りの汽車の時刻の関係で出席できないため、執行部ないし組織部の者に投票用紙を予め渡しておいて投票するという、いわゆる「不在者投票」がこれまでにもたびたび行われてきたし、特に問題とされたこともなかつた。本件の大会決議においても、五票の不在者投票があり、これらはいずれも従前の例によつたものであつて、規約の趣旨に反していないことは明白である。したがつて、決議は大会会場での投票による賛成一〇六と不在者投票による賛成五の合計一一一で、全組合員二二一名の過半数を満たし、可決、成立したものである。

(被告らの主張)

仮に原告の請求が理由があり、被告らが支払に応じたとすれば、被告らは異議なく分配金を受領した組合員にその返還を求めざるを得ないが、そうすると、組合大会において自ら分配を決議した組合員が、その分配金を得られないという矛盾した事態が生ずることになる。のみならず、原告の主張が理由のあるものとすれば、原告は分配金を受領した組合員に対しその返還を請求できるはずであり、そうとすれば、原告には法律上何ら損害を生じてはおらず、損害があるとしても、それは右返還請求の手続きに要する費用ないし取立不能額に限られるはずである。このことをも考慮するならば、仮に原告が被告らに対し何らかの請求権を有しているとしても、その行使は権利の濫用として許されない。

5  同5の事実のうち、被告らが原告主張の日に原告に会計帳簿等を返還したことは認めるが、その余の主張は争う。

(一) 一般会計帳簿に記載された支出はいずれも実際にあつたものであり、原告に引き渡された領収書によつて照合できるのであつて、支出方法も昭和五八年一〇月七日以後と以前とで何ら変わりはない。同年一一月一四日以降の支出の大部分が食費や交通費によつて占められているのは、執行部において、前記執行部批判派による分派分裂活動に対抗して、組織固めを図るため、勤務時間外に友好関係にある他の労働組合の応援を得て組合員の家庭を訪問しての教宣活動を展開した際、活動員に対し夜食を提供し、交通費を負担したからである。

(二) カンパについては、金額の多少は別として従来からも行われてきたことであり、友好関係にある他の労働組合が苦境に立たされた場合、経済的にも可能な限りでの援助をすることは労働組合として当然に許される事柄である。特に鴨島中央病院労働組合は女性のみの少人数組合であり、幹部組合員が解雇され、孤立無縁の闘争を戦つていた。しかし、ほかに支援してくれるような有力な労働組合もない状況下にある一方、当時の原告組合としても内部に組織問題を抱え、以後の援助は困難との見通しのもとに多額のカンパに踏み切つたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  全金労組は金属機械産業に従事する労働者を構成員とする個人加盟による単一組織の労働組合であり、各都道府県にその「地方本部」が置かれ、事業場ごとに「支部」があること、原告は全金労組に所属する組合員のうち徳島県麻植郡川島町にある三立電機株式会社に勤務する者を構成員として、昭和四八年二月一九日に結成された労働組合であること、被告らは昭和五八年一二月六日ごろまで、それぞれ原告主張の原告組合の役員であつて、執行部を構成していた者であるところ、右同日ごろ全金労組を脱退したとして、徳島金属労組に加入したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いのない甲第一、第一三、第三〇号証、乙第一ないし第八五、第八七ないし第九一、第九三号証、証人猪井栄次の証言、被告福家正照、原告代表者幸内和男、被告坂東和義の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  昭和五八年一一月当時、全金労組中央本部が民間労働組合の共闘組織の一つである全日本民間労働組合協議会(全民労協)に参加を決定したことについて、その地方本部や支部の中には、これを中央本部の右傾化体質を示すものとして強い反発を示す動きが見られた。このような動きに対して、中央本部は、活動の中心となつている組合員に対し統制違反を理由に脱退勧告、権利停止等の処分をほのめかすなどしてその活動を抑えようとし、そのため徳島地方本部においては、一部の支部若しくは組合員が脱退して、同月二五日、新たに徳島金属労組を結成した。

2  原告は全金労組徳島地方本部内の有力支部の一つであつたが、被告らによつて構成されていた原告の当時の執行部は、中央本部がとつた全民労協への参加の方針には批判的であり、地方本部内の他の有力支部とともに、次第に中央本部に対する対決姿勢を強めていた。そのため原告組合の内部には中央本部の方針を支持しその直接指導のもとに執行部批判の活動をするグループと執行部の立場を擁護するグループの二派が生じ、両派の対立関係は次第に深刻化していつた。特に会社側との間に年末一時金闘争が重要な段階を迎えていた最中の同年一一月一二日朝、原告の現在の執行委員長である猪井栄次らを中心とする執行部批判派が中央本部支持を確認するための組合員再登録署名を集めはじめ、執行部の中止勧告にもかかわらず独自に集会を開いて執行部批判を行い、ビラを配布するなどしたため、執行部もこれに対抗して各組合員の家庭を訪問して執行部を中心とする団結を訴えるなどの活動を展開し、こうして、両派の対立はいつそう激化していつた。

3  加えて、これより先の同年一〇月末には徳島地方本部の役員も兼ねていた被告福家正照に対し中央本部からほか三名の同地方本部の役員と合せて統制違反を理由とする処分予告もされていたことから執行部とその擁護派は危機感を強め、全金労組を脱退して徳島金属労組に加入することを真剣に検討しはじめた。そして、これに伴い、執行部は、その場合の組合財産の処置についても検討した結果、脱退前にこれを個々の組合員に分配することにし、執行委員会において、同年一一月二六日に臨時組合大会を招集して、その席上、(1)原告の組合規約五一条「この支部は、毎月一定の金額を組合費とは別に闘争基金として、積み立てておかなければならない。闘争基金は、特別会計とし闘争以外の目的には使用しない。」を全文削除する、(2)同日現在の原告の一般会計、闘争積立金会計、カンパ会計及び青婦会計の合計一四五五万一七九六円を全組合員に分配する、(3)分配方法は、右合計金額を全組合員の組合在籍総月数で除した金額に各組合員の在籍月数を乗じたものを各組合員の受け取る金額とする、(4)分配期日は同月二八日とする、との提案をすることを決定し、規約に則り大会招集について職場委員会の承認を得たうえ、同日午後五時一〇分から会社講堂で臨時組合大会を開催し、右議案を上程した。大会における無記名投票の結果は賛成一〇六反対六一であつたが、執行部は、このほかに不在者投票が五票あり、すべて賛成であつたから議案は総組合員二二一名の過半数に当る賛成一一一で可決、成立したとした。そして、これに基づいて執行部は同月二八日から分配を開始し、預金を払い戻して現金化したうえ、組合財産のうち少なくとも闘争積立金会計の一四六三万八七五六円、青婦部会計の四万二一〇六円、合計一四六八万〇八六二円を前記方法に従つて個々の組合員に交付し(ただし、受領を拒絶した一〇名余りの分については供託した。)てしまつた(以上の事実は、被告福家正照に対し処分予告がされたこと及び執行部とその擁護派が徳島金属労組への加入を検討しはじめたことを除いて、おおむね当事者間に争いがない。)。

4  そして、当時の原告の組合員のうち被告らを含めて執行部擁護の立場をとつていた者の多くは同年一二月六日ごろ、事実上、相次いで全金労組を脱退し、徳島金属労組に加入した。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで考えるに、原告が全金労組の内部組織の一つであることは前述したとおりであつて、法人格を有していないことは弁論の全趣旨に照らして明らかであるが、前述のとおり、原告は、全金労組の組合員のうち三立電機株式会社に勤務する者によつて構成され、前掲甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、決議機関として大会及び職場委員会、執行機関として執行委員会、代表機関として執行委員長等の組織・機関を有し、それ自体全一体としての組合活動を行つていることが認められ、これによれば、原告は、法律上、いわゆる「権利能力なき社団」としての性質を有する団体の一つであるということができる。そして、権利能力なき社団においては、その財産は、実質的には社団を構成する総社員の、いわゆる総有に属し、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めをしない限り、個々の社員は、右財産に関し共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である(最高裁判所昭和三二年一一月一四日第一小法廷判決民集第一一巻第一二号一九四三頁)。特に、労働組合にあつては、組合財産は組合活動の経済的基礎をなすものであり、これを個々の組合員に分配してしまうということは、実質的には組合活動の放棄即ち解散と同様の効果をもたらすものであるから、原告においても組合財産を分配するには全組合員の同意があるか、若しくは組合規約(前掲甲第一号証)一一条所定の「支部の解散」に準ずるものとして少くとも全組合員の四分の三の同意を要すると解すべきところ、前掲甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告らによつて構成される原告の執行部が配分の対象とした闘争積立金会計の一四六三万八七五六円、青婦部会計の四万二一〇六円、合計一四六八万〇八六二円はすべて組合員から納入された組合費によつて形成された組合固有の財産であつて、個々の組合員からの預託によるものではないことが明らかであり、したがつて、これを分配するためには少くとも全組合員の四分の三の同意を必要としたわけである。しかるところ、前認定の臨時組合大会においては、執行部提出の組合財産分配に関する決議案については、仮に不在者投票の五票が有効であるとしても全組合員の二分の一を一票上回る賛成しかなかつたことは前認定のとおりであり、これによれば、右組合財産は本来分配することのできないものであるところ、被告らによつて構成される執行部はこれを分配してしまい、その結果、原告の前記組合財産が雲散霧消したことは前認定の事実に徴して明らかである。

ところで、労働組合の執行委員等の役員は当該労働組合との間では委任ないし準委任の関係に立ち、したがつて、役員は労働組合に対し組合財産につき善良な管理者の注意をもつてその取得、管理、処分等の任に当るべき義務を負うものと解されるところ、前認定の事実によれば、被告らは、全金労組中央本部及び原告組合内の執行部批判派と、被告らによつて構成される執行部及びその擁護派との対立関係が深刻化する状況下において、全金労組を脱退して徳島金属労組に加入することを決意したものの、そうすると、原告の組合員資格を失い、原告の組合財産についても何の権利をも有しなくなることから、脱退に先立ち、これを個々の組合員に分配してしまうことを意図し、通謀のうえ、執行委員会の名において組合大会に前認定のような提案をしたうえ、大会決議を盾に組合財産の分配を行つたものであることは推認するに難くないところである。これによれば、被告らは、労働組合の存続中においては組合大会の全組合員の過半数による賛成の決議があつたからといつて組合財産を個々の組合員に分配するというようなことは法律上不可能なことを知つてか、そうでないとしても容易に知りうるにもかかわらず、あえて、これを分配したのであつて、その結果、原告の組合財産のほとんどを消失させ、組合活動に重大な支障を生ずるに至らせたのであるから、被告らの前記組合財産の分配行為は、原告に対する委任ないし準委任契約上の義務の履行を怠るものであるばかりでなく、不法行為を構成するに足りる違法性を具備するものということができる。したがつて、被告らは原告に対し、共同して、そのために原告が被つた損害を賠償すべきである。

三  そこで、右損害について考えるに、被告らの右行為により原告の組合財産のうち少くとも合計一四六八万〇八六二円にのぼる現金・預金が消失したことは前認定のとおりであるから、原告はこれと同額の損害を被つたことは明らかである。もつとも、前述したとおり、組合財産の分配というようなことがもともと特別の場合を除いては法律上是認し得ないものとすれば、分配を受けた組合員らは法律上の原因なくしてこれを取得したわけであるから原告に返還すべきであり、原告は右組合員に対し不当利得返還請求権を有するというべきである。しかしながら、そうだからといつて直ちに、これを行使しうる限度においては、原告は現実には損害を被つていないとか、発生した損害がこれによつて填補されているということはできないのであり、そのためには原告が右不当利得返還請求権を行使し、個々の組合員から現実に逸失した組合財産を取り戻すことが必要である。

ところで、被告らは、原告が個々の組合員に対する右不当利得返還請求権を行使しないでおいて、被告らに対し損害賠償請求をするのは権利の濫用である旨主張する。確かに、原告の、個々の組合員に対する不当利得返還請求権と被告らに対する損害賠償請求権とは、本来、被告らの行為によつて原告が被つた損害の填補という同一の事柄をその目的としているのではあるが、法律上、両請求権はそれぞれその発生要件を異にするものであるから同時に成立することが可能であり、いま、仮に、被告らが原告の請求に応じてその損害を賠償したとすれば、被告らは個々の組合員に対しその受けている限度での利得の返還を請求しうるのである。とはいえ、個々の組合員からその受けている利得の返還を求めることは被告らにとつて労力的その他の点でかなりの負担となることは避けられないが、このことは原告がする場合でも同様であつて、もともと組合財産の散逸という事態を招いたのは被告らの行為によるのであるから、被告らに対し右のような負担を負わせることは何ら公平の観念に反するものではなく、原告の請求を目し権利の濫用というには当らない。

したがつて、被告らは原告に対し各自前記損害金一四六八万〇八六二円及びこれに対する組合財産の分配(不法行為)の後である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

四  次に、原告主張のその他の損害について検討する。

いずれも成立に争いのない甲第四ないし第六号証、第八ないし第一一号証によれば、原告の会計においては、昭和五八年一一月一四日以降の一般会計上の支出には食費と交通費が目立つて多いこと、会計帳簿の記載と銀行預金通帳の記載とが必ずしも符合せず、ある時点では、預金通帳記載の残高の方が会計帳簿記載の現金・預金の残高より多いという、不自然な記載がみられること、一般会計においては同年一一月三〇日付けで「役員業務補償」の名目による三七万三三二五円という多額の支出がされており、カンパ会計においても同年一〇月一七日から同年一一月二二日までの短期間内に鴨島中央病院労働組合に対するカンパの名目で三回にわたり合計四〇万円という多額の支出がされていること、一般会計帳簿は一〇頁から一三頁までが破り棄てられ、昭和五八年九月二六日以降の分の記載が書き改められており、一般会計、闘争積立金会計、カンパ会計及び青婦部会計の各帳簿の記載は必ずしも一目して明瞭とはいえないものであることが認められ、これによれば被告らによつて構成される執行部によつて運営されていた原告の会計には、会計処理及び支出の適否の点で問題視する余地があることは否定できない。しかしながら、本件全証拠によつても、原告主張のように、会計帳簿上支出の記載があるものの中に実際には支出されておらず、被告らにおいてこれに相当する金額の現金を隠匿しているものがあることを断定することはできず、前掲甲第一号証及び成立に争いのない甲第三号証によれば、右支出は必ずしも組合大会で議決された昭和五九年度予算の金額の範囲を超えるものではなく(ただし、カンパ会計については予備費の予算金額も併せ考慮して)、原告においては、予算については執行部が支出の権限を有していること(規約五二条)が認められ、これによれば、仮に右支出のうちに適切を欠くものがあつたとしても、直ちにこれが被告らの不法行為を構成するに足りる違法性を有するということはできない。

したがつて、原告の請求中、被告らによる会計上の不当支出等を理由とする損害賠償請求に関する部分は理由がない。

五  よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し一四六八万〇八六二円及びこれに対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからその範囲でこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚一郎 山田貞夫 宮本初美)

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